子どもを抱っこしながら歩いている父親。
楽しそうに肩車をしている父親もいる。
親子連れでよく見かける光景だ。

どうあがいても、今の私にはやりたくてもそんなことはできない。

〇重いものを持てない

握力は成人男性の半分くらいしかない。
現時点では握力が少ないことによる不自由はほとんど感じない。
重いものが持てない理由は2つある。
一つは、足腰が弱いため重い荷物を持ったとしても、踏ん張りが効かず、転倒してしまう可能性が高い。家族で食料品の買い出しに行ったとき、お米や2リットル入りの飲料を持って歩いたが、ふらふらといつ転んでもおかしくない歩き方しかできず、妻に止められたことがあった。

そしてもう一つの理由は、上腕二頭筋と上腕三頭筋という、腕を曲げたり伸ばしたりするために必要な、とても重要な筋肉が全くないため、腕力を使うことができないからだ。
このふたつの筋肉は、筋ジスが発症した初期の段階で失われてしまった。
だから、物をつかむことはできても、腕の筋力だけで持ち上げることはできない。
子どもを抱っこしたくてもできない。
下の子に関しては、生まれてから一度も立ち抱っこをしたことがない。
本当に悔しい。残念でならない。

私なりにも男らしさや父親らしさの象徴である「力」を示したいが、こんな身体の状態では不可能に近い。
スリムで吹けば飛んでしまいそうな、か弱い女性や子供の方が私より力持ちなのだから。


〇手を上げることができない

三角筋や僧帽筋などの肩周りの筋肉が消失しているため、腕を上げることができない。
簡単に言うと、バンザイの姿勢ができない。
少し前までであれば右腕だけならできたが、今はもうその力も失われた。

だから、高いところにある物は取ることができない。
仮に手を上げられたしても上腕三頭筋がないから腕をピンッと伸ばすことはできない。

両手で支える力が無いため、ちょっとつまづいただけで、そのまま地面に倒れ込み頭を強打してしまうリスクが高い。また、変な転び方をして骨と皮だけの腕を骨折してしまったら、もうその骨は元通りに治らないかも知れない。



腕の筋力がないということには本当に苦労させられる。
あらゆる動作に制約が課せられることになる。
例えば、
拍手をすることができない。
立ち食いできない。
乾杯のしぐさができない。
ジョッキでビールを飲むことができない。
ラーメンを出されても両手で受け取れない。
立って電話に出ることができない。
洗濯物を干すことができない。
会話中に身振り手振りで表現することができない。
やぶ蚊が飛んでいても両手でパン!と仕留めることができない。

などなど、日常生活の中で不自由していることはいくらでも出てくる。

しかし、こんな状態なのに不思議とできることがある。
例えば、
歯を磨く
顔を洗う
頭を洗う
名刺交換をする
車のハンドル操作をする
など。

なぜできるのか、詳しい原理は不明だが、両手を組んだ状態であれば自力で腕の屈伸ができる。
両手で何かをつかんだ状態であっても同じ様に腕を曲げることができるし、伸ばすこともできる。

歯を磨くとき、両手で歯ブラシの柄をつかめば、口までブラシを持っていけるし、ゴシゴシ磨くこともできる。
取引先と名刺交換する際も、名刺入れを両手でつかんでいれば、違和感なく交換できる。
車を運転するときも、両手でハンドルをつかんでいれば、華麗なハンドルさばきも披露できる。

制約があったり、不自由にしていることの方が圧倒的に多いが、自力でできることは自分でやるし、できるようになるための工夫も一生懸命励んでいる。

ただ、どう頑張っても、我が子を立ち抱っこしたり、肩車することはできなかった。

もし、私の寿命の1年分と引き換えに、1分間だけ健常者の父親と同等の力を授けてくれるのであれば、
喜んでその取引に応じたい。

そのときは真っ先に我が子に向かって言いたい。
「おいで!今日は特別!一回だけパパが抱っこしてあげるよ!」