今年の流行語大賞の候補となることはほぼ間違いなしの「働き方改革」。

ほんの少し前までは、残業しないで帰ろうものなら上司や周囲から「仕事ができないやつ」とのレッテルを貼られ、仕事がなくてもしているふりまでしていたはずなのに。

今や毎日「早く帰れ」「命令だ」と消灯され、暗がりの中、パソコン画面の明かりだけで残務整理。

ついにはパソコンの電源まで切られ、それでいて「仕事は今まで通りちゃんとやれ」と当然のように要求される。
「ふざけんなよ」と机の1つも蹴りたくなる。


現場からすれば、政府の掲げた「働き方改革」の御旗の下に会社が手のひらを返したように残業削減を言い出し、上司は上から言われるがまま部下に要求する。


これが果たして「働き方改革」なのだろうかというのが、現場の本音ではないだろうか。

冷静に考えたとしても、会社はいったい何がしたいのか疑いたくなる。

残業時間を減らして残業代を浮かせたいのか。

急に仕事時間をばっさり減らされて従来と同じ仕事ができるはずもなく、それでもいいと思っているのか。

もしかしたら単に従業員の健康を心配してくれているのか。


人それぞれ感じ方は異なるだろう。

そもそも政府の「働き方改革」は何を目指しているのか

「働き方改革」は安倍政権が2 0 1 6年の8月に閣議決定で打ち出した看 板政策の1つ。

首相官邸ホームページの働き方改革実現会議の「働き方改革実 行計画(本文)」を読んでみると、その冒頭「1 .働く人の視点に立った働き方改革の意義」の(2)で、長時間労働について次のように触れられている。


「長時間労働は、健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因になっている。これに対し、長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく」と。


簡単に言うと長時間労働が健康、家庭生活を困難にしていて、日本における労働力確保の問題の根源になっていると指摘しているとともに時短の働き方が可能になれば、女性や高齢者の労働参加だけでなく、現在働いている人たちの勤務形態も自分に合った形に多様化できると提言している。


こうした提言をきっかけに、実にさまざまなキーワードが飛び交い始めた。多様な働き方/サテライトオフィス、テレワーク/短時間勤務/副業、兼業/プレミアムフ ライデー/朝活、ゆう活/時差B i z/労働参加率を上げる/女性活用/定年延長/外国人 の受け入れ/同一労働同一賃金/「非正規」をなくす/ワーク・ライフ・バランスの改善/メンタルヘルス/介護離職ゼロなど。

しかし結果として、個々のキーワードや制度導入がそれぞれ独り歩きを始めて、そもそもの目的が何だったか分からなくなってはいないだろうか。

仕事そのものについて

一方で、仕事そのものについてはどうだろうか。


政府が提言している働き方改革実 行計画(本文)に「経営者は、どのように働いてもらうかに関心を高め、単位時間(マンアワー)当たりの労働生産性向上につながる」と触れられている程度だ。

その後で全体を総括するように「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段である」と。

生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた成長を図る『成長と分配の好循環』が構築される。個人の所得拡大、企業の生産性と収益力の向上、国の経済成長が同時に達成される」と書かれている。


長時間労働の是正から、ひとっ飛びに個人の所得拡大、企業の生産性と収益力向上につながり、ひいてはわが国の経済成長が達成されると読み取れる。


マクロの視点ではよいが、現場の実態をあまりイメージせずに書かれている感が否めない。

そのためにいきなり残業時間(時間外労働)の上限規制に罰則をつけて厳しくすれば実現できるというわけでもないだろうに。

これら政府の施策を受けて、会社は急激に長時間労働禁止、残業禁止にかじを切り、上司は上から言われるままに下に要求するようになった。

先ほど挙げたさまざまなキーワード施策の洪水と相まって現場が大混乱しているというわけだ。



当社においても働き方改革の推進に励んでいるが、それに携わる実務者として、次回以降もこのテーマについて深く考えていきたい。