その日は金曜。
23時は私にとってゴールデンタイムの真っ只中。
タブレットでドラガリの真ユピテルの試練超級を周回していたときのことだ。

妻「あなたが溺愛しているあの子、パパにお願いがあるんだって」
私「へぇー。何だい?何でも聞いちゃうかも」
妻「クラスメートの男の子にチョコレート渡すけど、怒らないでね、だって」
私「!!」


真ユピテルの試練超級は少しのミスも許されない。
一人の安易なミスで他プレーヤーを電撃に巻き込んで全滅する可能性があるからだ。

私は妻の話を聞いた瞬間、指の動きを止めた。
他プレーヤーから「マジで!」と煽りスタンプの嵐

でも、そんなことはクソどうでもいい

妻「昔と違うのよ、今の子は」

妻「手作りをあげたいんだって」

私「手作りだと!何たることだ!」

妻「いい加減にしない、嫌われちゃうよ?あの子の成長を喜んであげなさい」
 「材料は買ってあるから、いっしょに作ってあげれば?あの子、喜ぶよ?」

私「うぐぐ」

去年も同じような話があり、「まだ早い!」とパパの意向で”待った”をかけた。

高学年ならまだしも・・・化粧やら髪型やらファッションやら恋愛やら、トレンドの低年齢化が進んでいることは知っている。

が、

まったくけしからん!

もっと硬派にいかねば!

そんなことを思いながら、
もしこのようなおっさんが目の前にいたら、私はどう捉えるのだろうか・・・と考えてみた

「まったくもってけしからんオヤジだな!単なる頑固ジジイじゃん!」

妻が言うように、我が子の成長を喜ばなければ。複雑な心境だけど。

「・・・そうだよな・・・俺には・・・」


翌日。

愛娘「パパ、お願いがあるんだけど・・・」

私「何だい?」

愛娘「・・・チョコを作りたいの・・・」

私「お!もうすぐバレンタインだな!いっしょに作るか!」

愛娘「うん!」

私「でも条件があるよ」

愛娘「え?なあに?」

私「パパの分は一番おいしく作ってね!」

愛娘「うん!」

娘が自分の手の中から旅立ってしまうような寂しさを感じつつも、
深夜に気持ちを切り替え、Youtubeでチョコレートトリュフの作り方を予習した甲斐があった。

筋ジスでうまく曲げられない腕を、娘に悟られないように変な汗をかきながら手首の動きや肩の角度で懸命に調整。

途中、牛乳をこぼしてしまうハプニングに見舞われるが、完成度の高いチョコレートトリュフを作ることができた。

愛娘は上機嫌。

大仕事を終わらせたような達成感があった。

チョコは冷蔵庫へ。
そして、包装作業は妻と交代した。

その間、下の子とニンテンドースイッチで遊ぶ。


いつもとは違う父親らしさを見せられたかな




まだ言えないけど、


本当はね、


誰ともわからないガキに、最愛の娘が照れながらチョコを渡す光景を思い浮かべると、イラっとするんだ

ママとは違って、パパは子供の成長を素直に喜べるほど、できた人間じゃないんだ・・・

でもね、筋ジスだから、こんな身体だから・・・・

まだ動けるうちに、愛娘と一緒にチョコレートを作りたかったんだ

動けるうちに大切な思い出を作りたかっただけなんだよ


もう、1リットルの牛乳パックをうまく持ち上げられないけど、こぼさないように頑張るから

来年も一緒に作ろうな