久しぶりに工場棟へ足を運び、製品在庫の実地棚卸に立ち会っていた時のこと。

「わたまさん、しばらくぶりです」

出荷業務の班長が声をかけてきた。

近況など一通りの会話をしたあと、しばらくして急に真顔になって話を切り出してきた。

班長「この前うちの班に配属されたAさんについてですが・・・」

Aさんは障がい者枠で入社した新入社員。
製品の出荷作業が主な業務。

精神疾患があるが、比較的軽度で薬を飲んでいれば健常者とほとんど変わらない。

班長「Aさん、体調が良いときは仕事もできて雰囲気いいんですが、ムラがあるんです。機嫌が悪いと仕事を放り投げて早退してしまうし、連絡なくお休みするし・・・」

私「その頻度はどのくらいですか?」

班長「入社当初にそのようなことはなかったのですが、3カ月ほど前からポツポツ出てきて、最近では3日に1回のペース、出社しない週もあるんです・・・」
「病気だから、手も足も出ないんですよ。課員から不満も出てるし、ただでさえ人手不足なのにAさんの分もカバーしながらだと出荷のスケジュール次第では取引先に納品できない・・・障がいに対して配慮しなければならないことは十分わかっているつもりです。しかし・・・私もつらいんです。」
「できればAさんには辞めてもらって、代わりの人を補填してほしいです!」

私「お話はわかりました。でもなぜ今のタイミングで?」

班長「私なりに改善を試みましたが、成果が出なくて・・・毎日忙しいし・・・障がいを抱えるAさんのことを考えると、なかなか言い出せなくて・・・」

現場のストレートな意見。

障がい者枠で雇用する。
障がいがあるから状況を鑑みて配慮しなければならない。
それは身体障がいでも精神障がいでも同じ。

それが前提で働いてもらっている。

が、勘違いしてはいけないことは、会社はボランティアで障がい者を雇用しているのではない。

自社の業務効率を上げて、結果的に利益の上昇を見込んで採用しているのだ。

もちろん、そこには社会的貢献だったり、障がい者雇用促進法で定められている法定雇用率を守るためといった理由もあるが、それを守らず、罰金や社名公表をあえて選択する企業もある。


つまり、企業側は障がい者雇用を社会貢献の目的だけで行っているのではない。

班長が訴えていることは、当社だけに限ったものではない。
障がい者と働いている現場には少なからず起こりうるのだ。

このような場合、当社では現場監督者に対しあらためて配慮の余地を検討してもらい、それと同時に、障がい者と直接面談し事実関係を精査する。

病状によっては自宅訪問し、親族と面談するときもある。

精神疾患をかかえているAさんのようなケースでは、薬を変えた、または量を調整した可能性があり、それによって病状が悪化している可能性がある。
改善の余地があれば、雇用維持を検討すべきだが、すでに現場のモチベーション、能率に多大な影響を及ぼしている状況下で、時間をかける改善は難しい。

やむを得ない場合は、障がい如何問わず、就業規則に当てはめなければならない。

Aさんは試用期間が終わっている・・・
Aさんには有給休暇が残っていない・・・
Aさんは無断欠勤を繰り返す・・・
注意を促しても、
それでもAさんは無断欠勤を繰り返す・・・

彼のやる気にあふれた採用面接は記憶に新しい。

残念でならない。